○大江和彦1) 波多野賢二1) 田代朋子2) 佐藤 恵3) 佐々木哲明3)
東大病院中央医療情報部1)
有)T辞書企画2)
(財)医療情報システム開発センター普及調査部3)
Building a Unified Code Set of Diagnoses and the related Surgical Procedures with Information about Semantic Structure
Ohe, Kazuhiko 1) Hatano, Kenji 1) Tashiro, Tomoko 2) Sato, Megumi 3) Sasaki, Tetsuaki 3)
Hospital Computer Center, University of Tokyo Hospital 1)
T-Jisho Kikaku, Co.Ltd.2)
MEDIS-DC3)
Abstract: In Japan, the ICD10-based code set of disease names and the dictionary of disease names for health-insurance claims are available for exchanging patients' diagnostic information. Further ICD9CM-based code set of surgical procedures is also available. However, these standards have several problems when they are used for electronic patient record system; redundant entries for synonymous terms, insufficient information for building clinically hierarchical tree-structured menus, no relationship between disease names and surgical procedures, etc. We have been rebuilding these standards so that an unified code set with information about semantic structure might be provided. In this new code set, any disease concept can be described by a combination of one primitive disease concept code and one or more concept-modifier's codes, and the clinical relationship between disease concepts and surgical procedures to be often conducted is introduced. We have reviewed about 75% of the entries from the ICD10-based code set and 15% of them were filtered out. In several month, all of the entries will be reviewed and a new code set will be published.
Keywords: ICD10, Standard Disease Names, Thesaurus, Code Set, Electronic Patient Record
1. はじめに
日本で医療情報システムで電子的に利用できる標準的な病名マスターは、a) 標準病名マスター(ICD10・レセ電算システム対応)1)、b) 診療科別標準傷病名集2) の2つが代表的である。また手術処置マスターとしては ICD-9CM準拠標準手術・処置マスター3) が存在する。これらを病院情報システムや電子カルテに組み込んで使用しようとすると、臨床上実用的なメニューを構築する情報が不足している、診断名として適切でない類義用語が多数含まれている、ICD10コードが不正確なものが散見される、ひとつの病態概念を2とおり以上で表現できる、病名と手術処置用語の関係づけ情報がなく診断名をつけても手術処置名を入力するには診断名とは独立に検索する必要がある、などの問題をいずれのマスターも抱えており、実用的に利用するには極めて扱いづらい。そこで、このような問題を解決するためにはこれら3つを統合したマスターを整備することが不可欠であると考えらる。そのためにどのような情報をどのように収載し、コードをどのように与えるかについて検討した上で、これらを統合した用語コード集の編纂を行なうこととした。
2. 統合型用語コード集のあり方
2.1 病名概念セットと修飾語セット
病名マスターには、病名という表現形によって表現される「あるひとつの患者状態」をただひとつのエントリーで収載することが重要である。この「ひとつの患者状態」を病名概念とここでは呼ぶことにする。病名概念は通常ある文字列によって表記され得るが、修飾語を追加することによってより詳細な患者状態を表現することが可能である。この「修飾語付加による概念の詳細化」はほとんどの場合限りなく可能であり、しかもそのように詳細化された患者状態もひとつの病名概念を表すから、病名概念はほとんど無数に存在することになる。構築される用語コード集においては、そのコード体系によってほとんど無数の病名概念を表現できる必要があり、かつ用語コード集にはその基礎となる有限個の病名概念と修飾語のセットを備えている必要がある。病名概念セットに採択される病名概念は無数の病名概念に発展しうるだけのセットでなくてはならないが、採択基準を明示するのは困難である。そこで今回は、?ICD10の最も細かい分類レベルでの概念は採択する、?日本医学会その他の学会用語集に採択されている用語の概念はできるかぎり採択する、?臨床教科書や届け出文書などで用いられている概念は採択する、といった程度の暫定基準を設けた。この基準によって採択された概念と適当な修飾語との組み合わせによっても表現できない概念が見つかった場合には、その概念も採択することとした。さらに、採択された概念と適当な修飾語との組み合わせによって概念自体は表現できるがその概念の表記(次項参照)が、採択された概念の表記と修飾語表記との単純な連結形とならない場合にも採択することとした。
2.2 概念交換用表記と互換表記
採択される病名概念に対してそれを表現する表記が利用者に目に触れる病名用語となるので、医学的に違和感のない表記でなければならないが、同時に異なる概念と明瞭に概念の区別が可能な表記でなければならない。たとえば舟状骨のように手と足にある骨の場合には「手の舟状骨」「足の舟状骨」と表記することが必要である。このような事情から、概念の表記として、概念を交換するための標準的な表記という意味で概念交換用表記を設定することにした。これはすべての概念を通じて表記文字列が一意性を保つものである。このような制約条件が存在するため、概念交換用表記は必ずしも臨床医学で一般に使われる表記と異なってしまう場合がある。そこで概念交換用表記とは別に互換表記を1個以上複数設定することを可能とした。臨床上は互換表記を用いて構わない。
2.3 類似表記
概念交換用表記と可用表記とは別に、ほぼ同義の表記であるが用いることは好ましくない表記を類似表記として設定することとした。類似表記には、あきらかな誤字による表記なども含むものとした。
2.4 概念交換用コード体系
ひとつの概念に対して互換表記を導入したことと、固定長英数字による概念交換を可能とすることがデータ処理上は便利であることなどかた、概念交換用コード体系を導入することとした。採択されたすべての概念にはIOZを除く23の英大文字と10個の数字の合計33文字セットを使用した4桁コード(但し1文字目は英文字)を、修飾語には1文字目を数字とした同じく4桁コードを採用することとした。これにより病名概念は最大826,551概念、修飾語は359,37個をカバーすることができる。ある患者状態を表す概念は、病名概念コード1個と通常は0個から4個程度の修飾語の連結により表現されると予想される。また、修飾語と病名概念との異なる組み合わかたで同じ患者状態を表現できてしまうと両者の同一概念性の判定が困難になるのを避けるため、組み合わせ方法の正規化ルールを作成し、組み合わせ作成時に正規化することとするが、この方法については確定していない。
2.5 病名情報の交換方法
これまでに述べてきた要素を用いて、病名情報を交換するには、概念交換用コードの組み合わせ、概念交換用表記の組み合わせ、ICD10分類コード、入力された元の表記文字列の4つをセットとして同時に交換する。たとえば、入力した病名が早期幽門癌の場合、採択された病名概念=幽門部胃癌(コード=A123)、修飾語=早期(コード=8765)とすると、"A123+8765,幽門部胃癌+早期,C164,早期幽門癌"となる。このような方法をとると、仮に修飾語セットにIIc型という修飾語がない場合に医師がIIc型早期幽門癌と入力した場合には、"A123+8765,幽門部胃癌+早期,C164,IIc型早期幽門癌"というように最悪でも医師の入力した文字列は正確に伝えることができる。
3. 手術処置用語との関連
電子カルテシステムや手術記録システムで手術処置マスターから用語を選択する場合、当該患者にはまず診断名をつけることが普通である。そして診断名が定まれば、その診断名に応じた手術処置行為はかなり絞り込まれることが多い。たとえば胃癌という手術診断を入力されている患者の手術術式は胃切除に関連したごく一部の手術術式から選択することができるはずである。このように、手術処置用語はその対象となる診断名と関連づけられる情報をもっていれば非常に使いやすいマスターとなる。さらに手術用語もまた病名概念と同様に主たるプロシジャー名とそれに対する修飾語から構成されるので、病名概念マスターと同様の手法で構築することができると考えられる。
4. おわりに
2000年9月10日時点で、ICD10準拠標準病名マスターの約75%にあたる23,288用語について一次見直し作業がなされ、うち15%が同義的である用語とされ採択概念から外された。また約6%の用語についてICD10の修正がなされている。今後、さらに同義性の高い概念のスクリーニングがなされる予定であり、その後にここに述べた情報を付加していく予定である。
参考文献
[1]財団法人医療情報システム開発センター、標準病名マスター(ICD10・レセ電算システム対応)、1998.
[2]財団法人医療保険業務研究協会、診療科別標準傷病名集、1997.
[3]財団法人医療情報システム開発センター、標準手術・処置マスター、1999.