ICD準拠標準病名マスターに基づく臨床病名分類階層の作成

波多野賢二1) 浜田篤2)  柏木聖代3) 田代朋子4) 渡部晃久5) 佐藤恵6) 佐々木哲明6) 大江和彦1)
東京大学医学部附属病院中央医療情報部1) 北里大学大学院医療系研究科医療情報学2) 帝京大学医学部衛生学公衆衛生学3) 有T辞書企画4) 株)イーピーエス情報技術部5) 財団法人医療情報システム開発センター6)

Development of Clinical Disease Name Classification Based on ICD10-based Code Set of Disease Names

Kenji Hatano1) Atsushi Hamada2) Masayo Kashiwagi3) Tomoko Tashiro4) Akihisa Watanabe5) Megumi Sato6) Tetsuaki sasaki6) Kazuhiko Ohe1)
Hospital Computer Center, Tokyo University Hospital1) Graduate School of Medical Science, Katasato University2) Department of Hygiene and Public Health, Teikyo University3) T-TERMINOLOGY Inc.4) EPS Co., Ltd.5) The Medical Information System Development Center6)

Abstract:
The Medical Information System Development Center The ICD10-based code set of disease names, that is one of most comprehensive set of disease names in Japan, was revised in 2001. In addition to introduce of semantic structure based on disease concept and systematic review of ICD10 Coding, clinical hierarchical classification of the disease names was developed. The original ICD10 code set has classification structure, but it is based mainly on cause of the diseases, so not suitable for clinical use. Newly developed clinical classification has hierarchical structure of the disease names and multiple classification for easy retrieval of items. This will promote use of the standard set of disease names in hospital information system, and users will be able to customize this classification easily to develop their own menu for disease name selection.

Keywords: Standard Disease Names, ICD10, Clinical Classification

1.はじめに
病名マスターの実用性を高め、その普及を図るには、マスター自体の充実に加えて、ユーザーが利用しやすい環境が提供されることが望まれる。病名マスターの主なユーザーは、その病名マスターを採用した病院情報システムや電子カルテの病名入力を行う臨床医である。臨床医に分かりやすい臨床的な考え方にもとづいた分類や階層メニューを持つことが、実用的な病名マスターの一つの要件となろう。そこで標準病名マスターの第2版への改訂作業に伴い、改訂作業班メンバーや各科専門医の協力を得て、補助マスターとして臨床病名分類階層の作成を行った。

2.ICD10分類階層
標準病名マスターでは、もともと全ての病名項目にICD10コードが振られている。ICD10そのものも大分類(章)、中間分類、3桁分類、4桁分類(一部のカテゴリーには5桁分類まである)という階層的な分類構造を持っている。これをそのまま階層メニューとして使用できればそれに越したことはないし、実際にそのような利用を行っているシステムもある。しかし周知のとおりICD10の分類は主に病因に重きを置いた構成であり、また全ての項目を並列一元的に扱う構造になっているため、ICD10の分類階層は臨床的な実用性には乏しいと言わざるを得ない。

3.臨床病名分類階層の作成作業
臨床病名分類階層の作成作業は、標準病名マスター第2版の全リードターム項目を対象にし、ICD10分類を出発点にして、その構造と内容を順次改変する形で行った。その結果末端の病名項目を含めて19000余項目からなる病名分類階層を2001年9月に標準病名マスター第2版の補助マスターとして公開した。

4.臨床病名分類階層の特徴
今回作成した病名臨床分類階層の特徴と利点は以下のとおりである: 1. 階層分類構成を、ユーザーに馴染みがある臨床各科の教科書的なものに近付けた。たとえばICD10では独立した章となっている「感染症」、「新生物」に含まれる病名を、各臓器分野に割り振った。これにより階層メニューからの病名項目の検索がしやすくなり、また各科別の部分マスターを容易に抽出できるようになった。 2. ICD10のダブルコーディングに当たる、多重分類を大幅に増やした。たとえばICD10では循環器疾患に分類される脳血管疾患を、神経系疾患にも含まれるようにした。これにより病名項目の検索性がさらに高まった。 3. もとのICD10での階層項目を病名項目で置き換えられるものは大部分置き換えた。これにより階層の構成がシンプルでわかりやすくなった。また病名項目そのものがかなりの部分で階層化され、包括的で臨床的に頻用される病名が上位階層に来るため、ユーザーは深い階層をたどらなくても素早く目的とする病名項目に到達できるようになった。たとえば、「幽門側胃癌」という病名は「胃癌」という病名の下位階層に来るようにした。

5.考察
今回作成した臨床病名分類階層により、本病名マスターを臨床場面でより実用的に利用する環境が整うものと思われる。しかし病名マスターには、今回の改定作業で相当整理されたとは言え、いまだに多岐にわたる病名項目が含まれている。これらを一元的に分類する作業はやはり困難であった。今回公開しているバージョンでは未だに未整理だったり、ICD10の分類がそのまま残っている分野も多い。また、小児科領域は、もともとICD10に小児疾患という考え方がない(新生児疾患や先天奇形のカテゴリはあるが)こともあり、今回は独立したカテゴリとして分類を作成するに至らなかった。今後はさらなる調査やユーザーからのフィードバックなどを基に改訂を進めていきたい。しかし、一方で病院の規模や臨床医の専門性の違いによって、扱う病気、付与しなければいけない病名のレベルはさまざまである。よって全てのユーザーに適する階層分類を作ることはもとより無理なことだとも言える。その点、階層分類のデータ形式は標準病名マスター第2版の仕様書に従っているので、ユーザー(臨床医)がそれをもとに分類階層を独自に作成したり、公開することも可能で、そのような動きが起こることを期待したい。今回の階層分類は一種の例示であり、そのようなユーザーによるカスタマイズの出発点としての意義を持つと考えている。

参考文献
財団法人医療情報システム開発センター 標準病名マスター(第2版)2001
大江和彦、波多野賢二、田代朋子、佐藤 恵、佐々木哲明 意味構造情報を持った病名と手術の統合用語コード集の編纂、第20回医療情報学連合大会論文集 2000